5/11
前へ
/56ページ
次へ
 護衛士は、馬が出てきたときには呆気にとられたものの、騎馬に短弓ならば、騎馬民族である帝国の戦士のお家芸である。  歩兵が主力の王国の剣士にどれほどのことができる、と高を括った。  マヒワは馬上で背筋を伸ばし、護衛士に向かって、一礼する。  護衛士も応じて、一礼を返した。 「御光流、マヒワ! 参る!」  マヒワの声は高く澄んで、よく通った。  競技場を包むどよめきが、マヒワの一声で鎮まり、空気が一瞬にして張り詰めた。  ――侮りが命取りになる。  ここにきて、護衛士は目の前の小娘がただ者ではないと思い直した。  護衛士は槍を左手に持ち、石突を地面に突き、正面に立てた。  右手は、からだの側面に力を抜いてたらしている。  からだのどこに矢が飛んできても、即時に槍で裁けるようにするためだ。  驚いたことに、マヒワが動き始めたのは、護衛士が槍を構える姿勢をとってからだった。  勝負事なら、相手の体勢が整うまでに仕掛けるのが定石なのに、それをあえて待っていた。  つまり――余裕をもって仕掛けているということか。  護衛士は呼吸に集中し、心を落ち着けた。  マヒワは短弓に矢を番えると、引き絞りながら、腰から下の動きだけで馬を巧みに走らせた。  手綱を使わずに下半身だけで馬を操るのは、幼いときから馬と一緒に育っている騎馬民族なればこそ、できる技なのだが――。  疑念が集中力を乱れさせた。  気付いたときには、放たれた矢が迫っていた。  あわてて、槍で払う。  間髪入れず、つぎの矢が飛んでくる。  つぎ、つぎ、つぎ――。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加