8人が本棚に入れています
本棚に追加
その向こうに、頭の方から逆さに覗き込むマヒワの笑顔があった。
――よい笑顔だ。
「そろそろ、まいった、をしていただけませんか?」
マヒワは息一つ乱していない。
「お見事――完敗だ……」
護衛士は、それを言うだけで精一杯だった。
まだ、地面に叩きつけられたときの衝撃が背中に残っている。
「ごめんなさい。護衛士さんがあまりにもお強いかただったから、頭を蹴っちゃいました。大丈夫ですか?」
「ナーガという――。頭は……大丈夫だ」
といって、ナーガはようやく頭をもたげた。
「ナーガさん、立ち上がれますか? 無理そうなら、医療班を呼びますけど」
マヒワがナーガに手を貸して、上体を起こした。
ナーガがあぐらをかいて、頭を振っていると、マヒワの腰の帯鉤が目に入った。
ナーガの目が大きく見開かれた。
「マヒワさん、あなたの、その帯鉤は……」
「あ、これですか、母の形見で、あたしのお守りです。今日、ナーガさんに勝てたのも、この帯鉤のおかげかもしれません」
といいながら、マヒワがナーガの背中に手を添えて、立たせた。
ナーガとしてはもう少し近くで帯鉤を確かめたかったが、仕合の途中であることを思い出し、あきらめた。
二人が立ち上がると、場内を大きな歓声が包んだ。
ナーガがマヒワの手首を握って、天に掲げ、マヒワの勝利を宣言した。
競技場がさらに大きな歓声で満ちた。
仕合が終わって、宰相からねぎらいの言葉を受けたのち、武術界の知った連中からもみくちゃにされて、ようやくマヒワは家に帰ることができた。
最初のコメントを投稿しよう!