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 その向こうに、頭の方から逆さに覗き込むマヒワの笑顔があった。  ――よい笑顔だ。 「そろそろ、まいった、をしていただけませんか?」  マヒワは息一つ乱していない。 「お見事――完敗だ……」  護衛士は、それを言うだけで精一杯だった。  まだ、地面に叩きつけられたときの衝撃が背中に残っている。 「ごめんなさい。護衛士さんがあまりにもお強いかただったから、頭を蹴っちゃいました。大丈夫ですか?」 「ナーガという――。頭は……大丈夫だ」  といって、ナーガはようやく頭をもたげた。 「ナーガさん、立ち上がれますか? 無理そうなら、医療班を呼びますけど」  マヒワがナーガに手を貸して、上体を起こした。  ナーガがあぐらをかいて、頭を振っていると、マヒワの腰の帯鉤(バックル)が目に入った。  ナーガの目が大きく見開かれた。 「マヒワさん、あなたの、その帯鉤は……」 「あ、これですか、母の形見で、あたしのお守りです。今日、ナーガさんに勝てたのも、この帯鉤のおかげかもしれません」  といいながら、マヒワがナーガの背中に手を添えて、立たせた。  ナーガとしてはもう少し近くで帯鉤を確かめたかったが、仕合の途中であることを思い出し、あきらめた。  二人が立ち上がると、場内を大きな歓声が包んだ。  ナーガがマヒワの手首を握って、天に掲げ、マヒワの勝利を宣言した。  競技場がさらに大きな歓声で満ちた。  仕合が終わって、宰相からねぎらいの言葉を受けたのち、武術界の知った連中からもみくちゃにされて、ようやくマヒワは家に帰ることができた。
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