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 マヒワは、カチェを下ろすと、猛然と駆け出した。  マヒワが鬼の形相で迫ってくるのを見て、あわてて外に逃げ出した者がある。 「オハム! まてぇーい!」  ひいぃー、とわざとらしく悲鳴を上げながら、オハムが逃げる。  その後を、マヒワが追い回した。 「こらーっ! 罰として、地獄突き、千回じゃーッ!」  その姿を見ながら、スイリンがライラの横に並んだ。 「ライラちゃん、ししょーの言ってる『地獄突き』ってなぁに?」 「あたしも知らない。ししょーは、泣く子も黙るほどのひどい鍛錬だっていうもんだから、あたし、罰を受けないようにがんばってるもん」 「ああ、ライラちゃんも知らないのね……」  といって、スイリンは微笑んだ。  ――お嬢様は、純粋に、追い駆けっこを楽しんでいらっしゃるのだわ。  うんうん、と独りで納得しているスイリンを、不思議そうにライラが見上げていた。    みんなの明るい声が天高く舞い上がった。  草原を吹き抜ける風は、ようやく春の色を運んできた。    (第一部 了)
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