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 マヒワは門衛の詰め所に顔を出すと、形や大きさが規格に合っていないので卸すことのできない野菜を、手土産に置いていった。  マヒワの姿を見て休憩中の衛士たちがわらわらとよってきたが、「帰りにまた寄ります」といって先を急いだ。  以前、世話になった宿屋と料理屋に卸したあと、市場に行った。 大店なら専属の社員が競りに参加するが、孤児院のような小規模のところは、市場に勤めている職員に代行してもらう。  予定の刻限に市場に着くと、マヒワも荷下ろしを手伝って、競りの会場まで芋の入った麻袋を運んだ。  運んでいる途中、別の会場で競りに参加している若者に既視感を覚えた。  マヒワは若者の顔から目を離さない。  その若者は競りに集中しているようだが、マヒワに気づかないふりをしているような気がした。  競りが終わると、若者は逃げるように立ち去っていった。  ――やっぱり、怪しいわね。  セトとムーサは、この後、薬草の納品があるので、そちらに向かわせて、マヒワは単独で若者の後を追いかけた。  若者は市場のひとの間を縫って、人気の少ない方に走っていた。  若者が角を曲がって姿が見えなくなったので、マヒワは足を速めた。  マヒワが角を曲がると誰もいないように見えたが、目線を動かしていると、通路の端に寄って、片膝を突いて頭を垂れた若者を見付けた。  ――ややッ、この姿勢は!  この礼の仕方で、マヒワの記憶と若者がようやく結びついた。 「お久しぶりです。砦では、お世話になりました」  とマヒワは若者に礼を言った。  若者は、雑木林で会ったスイリンの仲間のうちのひとりだった。
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