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「お嬢様、お久しゅうございます」 「さぁ、さぁ、立ってください。それに、こんな人のいない廊下でこそこそ話していたら、余計に怪しまれますよ」 「お嬢様のおっしゃるとおりですね。では、こちらへ」  といって若者が案内したのは、市場で働く者たちの休憩室だった。  休憩室は結構混んでいて、若者の話によると、この場での雑談から結構有益な情報を得られるらしい。 「特に軍を動かすためには、大量の食糧が必要になりますから、市場の取り引きに必ず影響が出るんですよ」 「へぇー。言われてみれば、納得です。それで、何か変化はあったのですか?」 「それがまだ何も動きがなくて、かえって不気味です」 「何も変化がないのなら、白沙通商連合の動きもまだないということでしょう? なら、何が変なのですか?」 「宗廟(そうびょう)事変の裏には、紗陀(ジャダ)宗主国と白沙通商連合がいることは確かなんです」 「烏衣衆と魔香ですね」  マヒワの言葉に、若者が頷く。 「あれだけの大事を仕込んでいながら、その後の動きが全くない」 「普通なら、ほとぼりが冷めるのを待っている、とかでしょうけど……」 「そのほとぼりとは? 何の、ほとぼりなんでしょうね」 「……?」 「それなんです。わたしたちもわからないんですよ。それで、いろいろなところに潜り込んで、情報を集めているのです」 「モノとカネの動きですね」 「そうです。お嬢様は面白い方ですね」 「はい、よく言われます!」  マヒワは自分のどこが面白いのか、さっぱりわからないが、ニコリと笑って調子を合わせておいた。 「ところで、お兄さんは、こちらで情報収集を続けるおつもりですか?」
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