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 名前を聞こうとしたが、潜伏中だから聞かない方がいいだろうと思っただけで、決して名前を聞き忘れているわけではない。 「はい。もうしばらくは、この市場で物流や取り引きの変化を追う予定です」 「わかりました。でも、くれぐれもお気をつけくださいね」 「もったいないお言葉、感謝いたします」 「ところで、あたしはいまからおじさんのところへお見舞いに行きますが、みなさんもお見舞いにいかれまして?」 「いえ、周辺に関係がばれるとよくないので、気にはなっていますが、スイリンに任せております」 「それでは、みなさんの働きぶりを、あたしのほうから褒めちぎっておきます」 「いや、お嬢様、それだけは、おやめください! お嬢様にこうして見つかっただけでも、わたしは叱責ものなのです!」 「まあ、隠密ならそうなるのでしょうね。うーん、残念。みなさん優秀なのに……」 「お(かしら)も、わたしたちの働きを信頼してくださっているので、こうして専念できております」 「わかりました。それでは、あたしはこれで――」  といって、マヒワは休憩室を後にした。  市場を出たマヒワは、テンに跨ると、兵舎に隣接した病院に向かった。  バンを見舞ったが、からだを動かせるようになっていたものの、病床に寝ていた時間が長かったので、体力がいまひとつ戻っていないらしい。  それと、バンの手足に爪のないのが、動作を不自由にしている大きな原因だった。 「ほんとに、酷いことをするわね、あいつら! まったく許せない!」 「お嬢、抑えて、抑えて」 「わかってます!」  バンの怪我を見るたび、マヒワはやり場のない怒りに心を乱された。
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