<1・いきなり人生詰みました。>

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<1・いきなり人生詰みました。>

 世の中には、邪魔者を排除するためならなんだってする輩がいるのだ。  中には人を犯罪者にでっちあげて、人生をめちゃくちゃにしようとする輩も。 「うっ」  ガッチャァァァァン!  派手な音を立てて、グラスが床に叩きつけられた。ぎょっとしてカリーナが見ている前で、公爵家のご令嬢、ウンディーネが口元を抑えて蹲る。 「う、うううううっ!」 「どうした、ウンディーネ!?」  彼女を溺愛する両親が駆け寄ってきて、娘を抱き寄せた。それに対して他の使用人たちは冷ややかなものである。彼女が大げさに騒いで両親や人目を惹こうとすることなど珍しくもなんともなかったからだ。  それは、使用人のカリーナにとっても同じ。カリーナはウンディーネの家のメイドではなく、カリーナが食事を共にしていた侯爵家次男のロンの家に仕えるメイドであったが、それでもカリーナの悪評は知っていた。ついでに、彼女とお見合いして渋々婚約者にさせられたロンの愚痴も。  攻撃的すぎる言動、ヒステリックで使用人を病ませることで有名なワガママ娘。今回もまた露骨な茶番劇を繰り広げているだけだろうと誰もが思っていたはずだ――彼女の両親以外は。  だからこそ。 「お、お父様、お母様。ワインから、おかしな味がしましたの……気持ち悪い」  ウンディーネが震える指でこちらを指さしてきた時、カリーナもすぐに反応できなかったのだ。 「あのメイドが……わたくしのワインに毒を入れたのですわ!わたくしのロン様に懸想するばかりに、邪魔なわたくしを排除しようとしたのですの!」 「……ハイ?」  固まったのは、カリーナだけではあるまい。周囲の使用人たちも、ロンも、何言ってんだこいつという空気だった。  問題は。 「なんですってええええええええ!」 「なんと、我々の可愛いウンディーネになんてことを!」  よりにもよって、彼女の両親が真に受けてしまったこと。  先述したように、ウンディーネの父は公爵である。つまり、王位継承権を持っている。その発言権は、極めて強いわけで。 「これは国家転覆を狙った謀反だ!その愚か者をひっとらえよ!」 「ちょ、ま、まってまってまって!私そんなことしてませんって!」 「問答無用!」  ロンや他の使用人たちが止めるのもよそに。カリーナは兵士達に囲まれてしまう。 「うそでしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」  カリーナ、十七歳、メイド。  悪役令嬢サマにハメられて、無実の罪で投獄されることになりましたとな。  なお、国家反逆罪は死刑である。いきなり詰みゲーになった瞬間だった。
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