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「……なあ、カリーナ」
食事を終えた後、交代で穴を掘る作業に入る。今はガルフィとマーヤが穴を掘っているので、その間カリーナとエディが見張りをするという塩梅だ。穴のあたりにはゴザと毛布を敷けばよりカモフラージュができるだろう。
幸か不幸かこの牢屋の中は暗い。仮に中を覗き込まれても、状態が発覚するまでしばし時間を要するだろう。
「何かしら、エディ王子。あまり大きな声で話すと、外に聞こえちゃうわよ」
最初からほぼ丁寧語をとっぱらって喋るカリーナだったが、エディはまったく気にしていない様子だった。エディはちらりとマーヤたちを振り返ると、君は凄いな、と賞賛を述べた。
「君の意見一つで、諦めていたガルフィやマーヤの目の色が変わった。もう自分達は無実を証明することもできない、諦めるしかないとみんなが思っていたはず。わたしだってそうだ。それなのに、君だけはこんな牢屋に放り込まれても冷静で……怒りを燃やし続けてきた。その自信の元はなんだ?」
「自信?」
「ああ、君は……自分ならば必ずこの状況を打破できるという自信に満ち溢れているように見える。その力の根源はなんだ?君はあくまで、ただのメイドだろう?侯爵家に務めていたのだから、ある程度知識やスキルはあるだろうが」
「……そうね」
自信があるように見えるのか。なんだかおかしくて、カリーナはくすくす笑ってしまった。
自分はけして、強い人間ではない。
ただ強いように見せかけているだけであり、そう見せるだけでも意味があると知っている――それだけのことなのだけれど。
「……私は、強くもないし、自信があるわけでもないのよ。ただ、理不尽なことは理不尽だと言える人間でありたいと、そう思うだけ」
カリーナは床に、あぐらをかいて座って告げる。女の子がはしたないと言われそうな座り方だったが、エディは何も言わなかった。
「元々は、労働者階級の下っ端の下っ端。お父さんは、工場でボロボロになるまで働いて、私が小さい頃に死んじゃって。お母さんは女手一つで私を必死で育ててくれたわ。お母さんもブラックすぎる工場で働いてて、いくら体がお父さんより丈夫でも……全然楽ではなかったでしょうにね」
「優しくて強いご両親だったのだな」
「ええ。早くに亡くなってしまったけれど、お父さんのこともよく覚えてる。私の頭を撫でてくれるお父さんの手が大好きだった。お母さんも……お父さんが亡くなってからも、恨み事一つ私に言ったことはないのよ」
ただ優しい、優しくて素敵な人だったと。
私が父のことを尋ねるたびに繰り返し繰り返しそう言ったのだった。彼女の目はどこまでも穏やかで、心から父のことを愛していたのだとわかる瞳をしていた。
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