29人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、強いて言うなら……トイレの周りの床、タイル剥がれてて。土になってるかなってことくらい、なんですが」
「ふうん?」
それは良いことを聞いた。カリーナは目を細める。次に、少し前に運ばれてきた自分たちの食事のための食器を確認した。
陶器の平皿。小皿、小鉢。
ナイフにフォークにスプーン。
それからガラスのコップ、これらが人数分――。
「わかったわ、みんな」
カリーナは全員の顔を見つめて宣言した。
「脱走のためのプランが決まったわ。全員、耳を貸して頂戴な」
なるべく自信満々に聞こえるように宣言したつもりでいたが、三人の顔からは不安の色が消えない。無理もないだろう。脱獄しようと決意するのと、そのプランを信じるのは別問題だ。
「現状、ここから逃げる方法は主に二つ」
つ、と二本指を立てるカリーナ。
「ひとつ。大騒ぎを起こして見張りを呼び寄せ、そいつが牢屋の鍵を開けて入ってきたところでフルボッコにして鍵束を奪う。……なんだけど、これは最終手段だと思ってる」
「何でだ?俺ぁ腕っぷしには自信あるぜ?」
「ガルフィさんはそうでしょうよ。でも丸腰でしょ?さっきの兵士さん、腰に銃も下げてたし帯刀もしていたわ。兵士である以上訓練もしてるんでしょうし、丸腰で戦うのは危ないでしょ。……特に先鋒の貴方が怪我をする可能性が高いわ。さすがにそれは看過できない」
きっぱりと言い切ると、ガルフィは照れたように頰をかいた。確かに彼は頼りになりそうだが、だからといって彼に全部危ない役目を押し付けたいとは思えない。
こうなった以上、ここにいる四人全員運命共同体だ。誰か一人に負担が偏るようなことはしたくなかったし、カリーナ自身守られてるだけなどごめんだった。
「だから、もう一つのプランを優先したいんだけど、どうかしら」
カリーナは後ろを振り向く。
「基本的に壁ってやつは……地面の下まで続いてるわけじゃないのよね。特にこの建物、ボロそうだし」
トイレの床。
土であるならば――掘ることは充分に、可能だ。
最初のコメントを投稿しよう!