<3・忘れるな、反逆の意思を。>

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<3・忘れるな、反逆の意思を。>

 作戦は単純明快。  トイレ周りの床のタイルが剥がれること、その下が土であることを利用して、穴を掘るというものである。多分、欠陥工事だったのだろう。そもそもタイル剥がしたらコンクリートが出てこないで土というのがおかしいのだから。  壁の下を掘って、外に脱出する。極めてシンプルなプランだ。掘っている最中はタイルで穴を隠す。時間はあまりないが、幸いこちらは四人いる。交代で掘り続ければ、そう長くかからず穴を貫通させることができるだろう。  で、もちろん手で掘るには限界があるので、道具は何を使うかというと。 「ああああっ!」  食事の折、カリーナはわざとらしく悲鳴を上げた。 「ちょっと看守さん、困ってるの、来て来て来て!」 「……んだよ、うるせえなあ」  カリーナの声に、やる気のない警備兵があくびをしながらやってくる。時刻は夕方の七時。顔が赤い上きつい臭いから察するに、一人酒盛りでもしていたのだろう。太った警備兵は頭をぽりぽり掻きながら悠長に牢屋の前に歩いてくる。 「スプーンを何本か、間違えてトイレに落としちゃったの」  今日の料理は、安いスープとパンのみ。スプーンがなければスープを飲むのは難しい。もちろん皿に口をつければ飲めないことはないだろうが――。 「このままじゃスープが飲めないわ。新しいスプーンを頂戴」 「んだよ、皿に口つければいいだろ」 「私は侯爵家のメイドよ?私以外のメンバーはみんな高貴な方々ばかり。そんな恥ずかしい真似できるわけないじゃない。代わりのスプーンを二本ばかり頂戴な」 「……ったく、しょうがねえなあ」  ビンゴ、とカリーナは心の中でほくそ笑む。  もし、ナイフやフォークをくれと言ったら警戒されたかもしれない。それらはいざという時十分武器になりうるからだ。しかし、スプーンはその形状上、武器として使うにはあまりにも心もとない。仮にパクったところで、何かに使うことなどできないと考えるのは自然なことだろう。  つまり、多少不思議に思われても、不審に思われることはない。ということは、つまり。 「今度は落とすんじゃねえぞ」 「ありがとうございますわ」  男が投げてきたスプーンを、笑顔でキャッチするカリーナ。代わりのスプーンはあっけなく手に入った。――トイレに落としたなんて言えば、それが本当かどうかなんて確認しようがない。  そして、スプーンを二本仮パクした理由など想像もつくまい。スプーンは武器として使うのは難しいが、鉄製である以上土を掘るには十分なのだ。ましてや、触ってみたところさほど堅くない土であるし、多分堅い岩盤があるということもない。  それこそ役目を終えたら、スプーンは本当にぼっとん便所に捨てて始末してしまえばいいのだ。 ――チョロいもんね。  カリーナはエディ王子たちの方に視線を投げて目くばせする。  王族の処刑は、王様の独断でできるものではない。形だけでも議会を通す必要がある以上、三日程度は猶予があるだろいうというのが彼の見立てだった。  その間に穴を掘って、この牢屋を脱出するのだ。  何も悪いことなどしていないのに冤罪で処刑されるなんて、まっぴらごめんであるのだから。
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