この指、止まれ。

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 駅前の大きな道を抜けて小道に入る。朝の通学路だ。  高校入学と同時に買った、至ってシンプルなママチャリで学校まで向かっていた。  もう二年近く使っている学校指定のスクールバッグを背負いながら立ち漕ぎをする。  小道に入ると少しだけ坂になるので、そこからは自転車を押して学校まで向かう。  坂を上りきると、決して大きくはない校舎が現れる。  駐輪場に自転車を止めて、ボーっとしながら自分の教室まで行く。 「あいつまた独りだよ」 「バカ、聞こえるぞ!?」  三階にある教室まで、足取りは重い。  通り過ぎる名前も知らない生徒たちが、俺の方を見てヒソヒソと話している。  階段の踊り場にある全身鏡に、俺の大きな体が映っていた。  大きな体と、若干十八歳には見えない厳つい顔が、人を敬遠させてしまう。  中学まで野球部だったからまあまあ友達がいたけど……高校に入ってからはめっきり人と関わることがなくなった。  きっかけは、一年生の時。敬遠された理由は、今になって思うと本当にくだらないことだ……。  ――上級生からイジメられている生徒がいた。  同級生か、もしくは一個上の男子で、線の細いザ・イジメられっ子みたいな男子だ。  俺は勝手に体が動いて、上級生に囲まれて蹴られていたそいつを救い出した。  三人くらいいた上級生たちを投げ飛ばして、殴りかかってくるその手を簡単に捕まえて、逆に振り回してやった。  上級生たちは腰を抜かして逃げ出していき、俺は追いかけることもしなかった。  いつの間にか、円の中心でイジメられていたやつも消えている。    一年生の時から体が出来上がっていた俺からしたら、こんなの人助けでもなんでもない。  ただの気まぐれだった。  話したこともない、全く見ず知らずの気弱な生徒が、可哀想に思えただけ。  礼も言わずに消えていたのは少し残念だったけど、そんなもんだろうと切り替えて家に帰った。  だけど次の日、先生に呼び出しをくらった。
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