この指、止まれ。

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「一年の君島 宗典(きみしま むねのり)だな? 昨日、暴力沙汰を起こしたそうじゃないか?」  生活指導の強面先生に呼び出されて、根も葉もないことを言われた。  暴力沙汰を起こしたのは上級生で、俺はイジメられたやつを助けただけ。それを言っても、無駄だった。  やったのはお前だろうと、聞く耳を持ってもらえなかった。  後々わかったことだけど、その生活指導の先生は上級生たちの学年担当でもあったみたいだ。  受験がある自分の担当生徒を守りたかったのだろう。  自分の指導不足や監督不行きにもされたくない……だから、俺のせいして押し切ろうとしたんだ。  俺も最初の方は否定していたけど、徐々に面倒になって、ついには俺の非を認めてしまった。  それが良くなかった。  それ以来同学年のみんなからは暴力少年として白い目で見られるし、後ろ指をさされるようになってしまったのだ。  俺と関わろうとする人は誰一人いなくなって、それから孤独になった。  元々一人は嫌いじゃないし、気楽でいいやと楽観的だったけど……不幸は重なる。  ちょうどそのタイミングで、父さんが死んだのだ。  自殺だった。  俺の前ではおかしな挙動は一つもなかったし、精神的に病んでいることも気づかないほど、普通だったのに……母さんと俺を残して、一人で勝手に死んでしまった。  父さんの書斎で、首を吊って自害した。  遺書はなかった。  でも、母さんがボソッと呟いた言葉が今でも耳に残っている。 「やっぱり、私たち家族が負担だったのかな……お父さん」  その言葉を聞いて愕然とした。  父さんが死んだのは、俺のせいでもあるっていうのか。  母さんの様子もどことなく変わって、覇気がなくなった。  完全に孤独になって、俺の毎日に幕が下りたような気がした。  それからだ。  生きるってくだらないなって思い始めたのは。  命は、痛みや苦しみにさえ耐えられれば、あっけなく捨てることができる。  だから、こうやって毎日学校に通いながらも、いつ自分の人生に幕引きをしようかずっと考えていた。
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