この指、止まれ。

4/24

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
『この指、止まれ。』  安楽死について調べていたら、黒い背景と灰色の文字で形成されている異質なサイトに辿り着いた。  朝、自分の席に座って、周囲の生徒たちの雑音を聞きながら、内容を見てみる。  とても見づらいサイトなので、よく目を凝らして見てみた。  それはどうやら、安楽死を志す若者に向けたサイトみたいだ。  ファーストビューは、『死にたい若者へ』となっている。  そしてトップページの中心にドカッと、『この指、止まれ。』という太文字がある。これはリンクみたいだ。  それをクリックする以外、このサイトを楽しむ方法はない。  その文字をクリックすると、別のページにジャンプした。  今度はシンプルな掲示板か。  年齢と死にたい理由がズラッと書き連ねてある。  匿名のコメントたちは、メランコリーの巣窟だった。全部が鬱々しくて、俺にピッタリな居場所だとも思えた。  親の離婚、恋人との別れ、壮絶なイジメ……多くの理由をきっかけに死にたくなっている。  死にたくなる理由は人それぞれ。他人から見たら、『そんなことで死にたくなるの?』と思う人がいるかもしれないけど、俺はわかっている。  死にたい感情っていうのは、理屈じゃない。不幸の積み重ねで爆発するパターンや、あとは突発的に訪れるパターン。  俺も、どうして死にたいんだろうと自問自答したことがある。  死を志したきっかけはわかる。でも、そんなんで死にたくなるの? と疑問を向けてみても、結局は『死にたいから死にたいんだ』という答えで一蹴できた。  感情に嘘はつけない。  この掲示板に書かれているコメントを一つずつ見ていると、気になるコメントがあった。 『安楽死制度を利用するのに必要な10万円、稼ぎませんか?』  死にたいやつらのエピソードが長々書かれているのに対して、その短い文はよっぽど俺の目を引いた。  そうか、安楽死を利用するには、10万円必要だった。  10万円あれば、簡単に死ねる……俺でも、死ねる。  この数秒間で、一気に死への距離が近づいた気がして、嬉しくなった。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加