この指、止まれ。

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 そのコメントに、リプライしたくなった。  希望者という旨を伝えるには、掲示板に会員登録が必要らしい。  俺はフリーメールのアドレスを使って、手早く会員登録した。 『10万円必要です。お話聞かせてください』  それだけの文を送信して、スマホの画面を閉じた。  ちょうど良いタイミングで、担任が朝のホームルームをするために教室に入ってきた。  今日も興味のない、くだらない一日が始まる。  俺は先生からも見放されているので、静かにさえしていれば注意されることはない。  だから寝ていてもスマホを弄っていても、俺のことなんて見向きもしないのだ。  特につまらない数学の授業。眠くなりがちな三時間目になった。  とっくに定年を迎えているおじいちゃん先生の数式を聞き流しながら、机に突っ伏して目を瞑っていた。  このおじいちゃん先生、定年後も嘱託職員でまだ先生を続けているみたいだ。  そんなに働くのが好きなのか……俺には理解できないと、そんなことをボヤッと考えて過ごしていた。  すると、ポケットに入れておいたスマホが振動した。 『あなたに、安息の日々が訪れますように……』  例の掲示板を経由して、メッセージが届いた。  あの10万円の人からだった。  早速届いたのが、こんな宗教要素の強いメッセージとは。  面を食らってしまう。  すぐにもう一通届いた。 『会員の登録情報を見るに、もしかして高校生ですか?』  そうだ。生年月日の欄に、律儀に本当の生年月日を入力してしまった。  というか、プロフィール全てを嘘つかずに入力した気がする。  あんなのバカ真面目にする必要ないのに、思考が停止していた。  今更嘘はつけないので、俺は『そうです』と返信する。  またすぐに、メッセージが届いた。 『それじゃ、僕と一緒ですね』 「え?」  思わず声が出てしまった。  静かな授業中、俺のヘンテコな声が響き、視線が集まった。  払い除けるように周囲を睨みつけると、みんなが下を向く。  おじいちゃん先生はそもそも俺の声が聞こえてなかったみたいで、止まることなく授業を続けていた。  高校生? あのバイト募集をしているやつが、俺と同年代だって?  信じられない……ただの冷やかしかよと、むしゃくしゃしながらスマホをポケットにしまう。  するとまたすぐにスマホが振動した。
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