この指、止まれ。

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『家は都内ですか? 直接話をしましょう』  直接? 直接会って大丈夫なのか……。  こんな展開になるとは思わなかったけど、俺は興味本位で『都内です。宜しくお願いします』と返信した。  これも何かの縁だし、安楽死できるなら喜んで話をしたい。  後先なんて考えなくていい。  とにかく、この闇のサイトの住人であり、尚且つ俺と同年代という、こいつに会ってみたい。  すぐに待ち合わせの約束をした。  次の日曜日に、渋谷のカフェで会うことになった。  まさか見知らぬ人と会うことになるなんて……勢いというのは、時に変わった自分を引き出すのかもしれない。  恐怖と期待の両面がある。もしかしたら騙されていて、恐い大人が現れるかもしれない。 「それじゃあ、今日の授業はここまで」  おじいちゃん先生の号令と共に、終わりのチャイムが鳴った。  ここは教室で、今は授業中だったことを思い出す。  休み時間になると、みんなが騒ぎ始めた。自分だけの世界が消えてしまったみたいで、少しムカついた。  また机に突っ伏す。 「ねーねー、今月の安楽死者数、ついに100人突破したらしいよ」 「まじでー? 日本終わりじゃん」 「俺も受験勉強辛いし、安楽死しよっかなー」 「おいおい、冗談やめろよ」  酷く耳障りな会話が俺の近くで聞こえてきた。  そんな生半可な気持ちで、安楽死しようなんか口にするもんじゃない……うるさいなという怒りを表すように、キッとそいつらの方を睨んでやった。  俺の視線に気づいた一人が「ト、トイレ行こうぜ」と弱々しい声で鳴く。  周りにいた生徒はそそくさと消えていった。  今月の安楽死者数、100人を超えたって言っていた……そんなにあの制度を行使している人がいるのか。  人生を捨てたくなっている人間は、俺だけではない。そう思えると、なんだか嬉しく思えた。  次の日曜日が待ち遠しい。  約束したあの掲示板の住人は、きっと安楽死について精通しているやつだ。  つまり、俺と同種の人間。そんなやつと話せると思うと、ワクワクしてきた。  ソワソワして、ワクワクして、そんな風に毎日を過ごしていたら、あっという間に日曜日はやってくる。
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