プリムラの聖女は歌う

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 焼けた城の奥で、騎士は聖女を見つけた。まだ少女にも見えるその女は、幾重にも守られた扉の奥で1人、神に祈りを捧げていた。  「おい、お前がシネンシスの聖女だな 」  シネンシス王国の至宝と呼ばれる聖女。彼女の歌声は、全ての生き物を癒すという。  今回の戦の目的は、シネンシス王国を我が国の領土とすることと、この聖女を我が国に連れ帰ることだった。  聖女は怯えたように、こちらを振り向く。  「もうシネンシス王国は無い。王とその一族は全てその首を取った。我々が滅ぼした。お前はこれからは、我がポリアンサ国の為に歌うのだ 」  細い肩がビクリと揺れる。煌めく白金の長い髪が木の床の上で波打った。  返事など聞く必要はない。もう、この女が居た国は無くなったのだから。  聖女はこちらを向くと、黙って、深く(こうべ)を垂れた。  それは恭順するという意の証だった。  聖女は言葉を話さない。代わりに澄んだ声で歌を歌う。  聖女と言われても、私はそんなものを見たことがなかったから、実際にこの目で見るまでは存在を信じてはいなかった。  国に帰る道すがら、立ち寄った町や村で、聖女は人々の病や傷を治した。  彼女が歌うと、キラキラと金の粉が舞い、奇跡が起こる。  不治の病と言われていた少年はベッドから起きられる様になり、足の弱くなった老人が地面を踏み締めて立ち上がる。  しかし、それだけではない。彼女は心の傷まで、その歌声で治してしまうのだ。    透明な声で紡がれる、不思議な異国の言葉。意味は分からないが、歌声は胸の中に広がり染み込んでいく。
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