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久しぶりの青空で、隣には花鈴がいて、頬にあたる風が気持ちよくって、僕の心はときめいている。
花鈴は散歩というが、僕は二人のデートの時間だと思っているんだ。
川沿いの土手を歩いていると、前から可愛い女の子が歩いてきた。僕の眼が勝手に追ってしまう。つい、吸い寄せられてしまうんだ。本能だ。
僕と花鈴は土手に隣り合わせに座った。
「二三之助、タイプの女の子を見るとよそ見するの、やめてよね」
花鈴は呆れたように言う。
「いいじゃないか。だって僕が一番好きなのは花鈴に決まってるんだから」
そう言って、僕はそっと花鈴の頬にキスをした。
花鈴はふふっと笑った。
川の向こう側は林になっていて、ぼくの耳には微かな木々のざわめきが聴こえてくる。
花鈴は僕に寄りかかって、
「うわー、久しぶりの青い空。瑠璃色だよ、二三之助。なんか、幸せだね。何も持ってないけど。何もないけど、こんな時間が幸せ」
そう言って微笑んだ。
「そうだね、花鈴。僕も幸せだよ」
僕がそう返した時、花鈴の着ているパーカーのポケットの中でスマホが鳴った。
「お父さん、何? えっ……お母さんが……うん……分かった」
電話を切って立ち上がった花鈴は、慌てた様子で、僕になにも言わずに勢いよく走り出した。
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