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二人は昔よく一緒に遊んだ公園でとても久しぶりに顔を合わせていた。街灯が一本あるだけで辺りは暗く、風が少し冷たい。
「こんな夜中に公園なんて…私たちも年取ったよねぇ…」
美希がしみじみと呟くと賢立が笑う。
「俺らまだギリ二十代なのに何。どっかのばーちゃんみてえ」
美希は車椅子で近寄り、賢立の冷えた手を握った。
「営業スマイルはいいから。誰もいない。誰も見てないから大丈夫だよ」
風に乗って幼馴染の懐かしい香りが賢立の鼻を撫でると心の糸がぷつりと切れた。地面に膝を着き美希を抱き締め涙を流す。
「…怖い……俺、まだ死にたくない…!」
「せっかく夢が叶ったもんね…怖いよね…分かる。私も怖かった。嫌だった。でも賢立がいたから立ち直れた。私もいつか賢立を助けられたらってずっと思ってたんだ。あの時は…ありがとう」
美希は賢立の背中を擦りながらゆっくりと言った。賢立は声を震わせたまま鼻をすすった。
「…やっぱり俺、美希が書いた詞で歌いたい。売れなくても構わない。時間が限られてるなら尚更…なぁ。これから一緒にやらねえ?俺…ずっと美希のこと――」
美希にとっては、この上なく嬉しい提案だった。続きの言葉も自分の予想通りであってほしいと期待した。それなら、どんなに幸せだろう。「私も」と頷いて唇を奪い、彼に溺れたい。一緒に歩んで行きたい。けれど遮った。
「ねぇ…私は賢立のファン第一号だって言ったの覚えてる?オタクにとって一番嬉しいことはね?推しが元気で幸せでいてくれることなんだよ?」
美希は賢立にありったけの笑顔を向けた。
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