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「沢山の人の中から選ばれてデビューされただけあって強い運をお持ちのようですね。こんなに早くドナーが見つかるなんて…奇跡的なことなんですよ。では、これから麻酔を入れますので眠くなりますからね」
執刀医がにこやかに話しかけ液体が管を通ると賢立は深い眠りについた。
目を覚ますと病室のベッドの上だった。隣で手を握っていた女性が涙声で囁く。
「…手術、終わったよ。もう大丈夫だよ。詳しくは分からないけど…たまたま近くで病死した人が臓器提供カード持ってたんだって。これからも音楽やれるんだよ。良かった…良かったね…ケン…」
舌があれを渇望している。脳はその感覚を否定した。そんなばずはない。だって、俺は――賢立は震え、力任せに起き上がった。
「……べたい」
「ちょっ!まだ寝てないと!…え?」
「チョコミントが食べたい。アイスでもお菓子でも何でもいい。買ってきて!今!」
「わ、分かった!」
女性は賢立の気迫に圧されて慌てて病室を出て行った。手を伸ばせばギリギリ届く位置にあったスマートフォンを精一杯握り締め、震える指でLINEのアイコンをタップすると、祈りに反して美希のところに①と表示されている。画面を見つめる賢立の両目は見開かれ、そこから丸い液体が転がり落ち液晶がそれを受け止めた。
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