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学校にバイト、推しの情報収集、インラインスケートと歌…美希にとってはどれも大切で、それをこなすためなら食事時間や睡眠時間が減っても何とも思わなかったが取り憑かれたように没頭している幼馴染を賢立は心配していた。
そうしてついに、ある休日の朝インラインスケートを履いて家を出発した美希を呼び止めた。
「おーい!最近忙しそうだな。クマすごいぞ?ちゃんと寝てんの?」
「あ。賢立…うん!二時間は寝てるよ。最近、しょっちゅう新曲出るからお金も時間も足りなくてー…でもほら!インラインスケートはできるようになった!ご飯も靴も雅哉とお揃い!歩くより早いから時間短縮になるしスケートもできる舞台女優ってすごくない!?」
美希はクマのできた目を擦りながら振り返り、血色の悪い顔で嬉しそうに微笑んだ。
「二時間!?少なっ!!顔色悪いしマジで大丈夫かよ!?女優は肌のために睡眠も――」
「大丈夫大丈夫!!歌もうまくなってきたし最近調子いいんだー!賢立は?曲作り順調?」
美希は心配させまいと大きな声で遮るように答えてから賢立の趣味である曲作りについて尋ねる。賢立はそれ以上触れられなくなってしまった。
「……ぼちぼちかな。歌の練習するんだろ。気をつけて行けよ」
「うん!ありがと!曲できたらまた聴かせてね?私、賢立のファン第一号なんだから!」
賢立は静かに頷いて、小さくなっていく背中を複雑な表情で見つめた。美希のジーンズの後ろポケットから年季の入った小さなオレンジ色のマイクが顔を覗かせている。
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