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美希が歌の練習をしているのは近所にある大きな公園だ。無駄な時間を少しでも減らしたい…焦る気持ちを抑え歩行者信号が青になるのを待った。 心地良い日差しとそよ風。目的地は目の前だという安心感からか急に睡魔が襲ってきた。意識がふんわりとして重心が前へと移動する。アスファルトが若干、下り坂になっていることもあって美希は滑らかに道路に躍り出た。 途端に耳をつんざくようなブレーキ音が響く。どんっという鈍い音と共に衝撃で飛び出した玩具のマイクは容赦なく対向車に踏まれ、ぐにゃりとへこみ、美希が事態に気づいた時には体がガードレールに激突していた。頭はヘルメットのお陰で守られたが背中は無防備だった。自分の体から聞いたことのない音がした直後、激痛が走り景色が歪む。 「キャー!女の子がはねられたわ!誰か救急車呼んで!」 「うわ。事故だって。怖い…」 「え?何…どうしたの」 辺りは騒然となったが、美希には聞こえていない。薄れゆく意識の中で変形してしまったマイクを掴もうと手を伸ばすが届くはずなどなかった。
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