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ところが現実は甘くなかった。賢立が作詞は幼馴染の女性がしていると話すと、それを口外しないことがデビューの条件だと言われた。夢を叶えるまであと一歩のところまで来ていた賢立は、その条件を受け入れデビューを果たした。 デビュー以降、新しく作られた楽曲の作詞は表向きには賢立になっていたが実際に書いているのは編曲者で、賢立は最後に少し単語を変えるだけだった。当然美希の出番はなく、今までの日々が嘘のように賢立は、ぱたりと姿を見せなくなり美希は、その間に退院した。 いつも傍にいた賢立がテレビでインタビューを受けている。近いようで、とても遠いことを寂しく思いつつも新たな推しが活躍していることを喜んだ。 ――KENTAさんと言えば、やはりデビュー曲が印象的ですね。学生時代に作られたというのは本当ですか? 「はい」 ――作詞、作曲をお一人で? 「ええ。まさかこんなに評価していただけるとは思っていませんでした」 ――切ない恋心のようにも聴こえますが…KENTAさんのお気持ちでしょうか? 「まさか!想像ですよ」 相手の少し意地悪な質問を笑顔で受け流している。違う。あの曲は二人で…あれは、私の――美希は唖然としてしまった。何故なのか尋ねたくなってスマートフォンを手にしたが、きっと賢立の方から話してくれると言い聞かせて自分から行動を起こすのはやめた。
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