愛おしい我が子

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 声の方を向くと、隣のおばあさんが窓から顔を出してこちらを見ていた。 「はい、ずっとこんな調子で」  隣だけど、階段が違うから班も違うし、よく知らない人だ。とりあえずの愛想笑いでやり過ごそうとした。 「腹が減ってるんだよ。ミルク飲んだらぐっすり寝るさ」  寝不足もあってか、何も知らないくせにと、少しムッとした。 「でも母乳なので、ミルクはないんです」  体重増加に問題はない、母乳だけで大丈夫と、三ヶ月健診で太鼓判を押してもらっている。見ず知らずの人に、知ったかぶりして言われたくない。 「腹が太りゃ寝るのにねぇ。母乳が足りてないんでしょ」 「母乳は足りてるって、保健師さんに言われました」  母乳が足りない、そう言われると母親として足りていないと言われているようで、ムキになってしまった。 「あぁ、そうかい」  そんな私の気持ちを知ってか知らずか、簡単な言葉であしらわれた。 「あら、靴下履かせてないの? 足が冷えて寝れないんじゃない?」  赤ちゃんは体温調節が未熟だから、寝る時は靴下を履かせる必要はないって聞いたのに……。おばあさんの時代とは、子育て事情も変わっている。何も知らないのに、勝手なこと言われたくない。 「おばあさんは、こんな時間に何してたんですか?」
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