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千花と二人でコンサートに行く。そんな夢のような話が、いつか叶うといいなぁ……。生まれる前からずっと聴いていたから、推しの歌が千花の子守唄になったんだろうか。
一通りの家事を済ませて、近所のスーパーへ行こうと千花をベビーカーに乗せて棟の前を歩いていた。目の前からシルバーカーを押す隣のおばあさんがゆっくりと歩いてきた。
「おはようございます」
「あぁ、夜中の。おはようございます。あれから寝たかい?」
「歌ってあげたら寝ました」
「それは良かった」
おばあさんはベビーカーを覗き込んで、顔にたくさん皺を寄せて微笑んだ。
「かわいいねぇ。生きてるだけで感謝だねぇ」
名前を聞かれたので、千の花で千花ですと答えた。
「千花ちゃんって言うのかい。かわいいねぇ」
千花もご機嫌で「あー、うー」とおしゃべりしている。おばあさんのしわしわの指を、小さな手がグッと握った。
「まぁ、かわいいねぇ、かわいいねぇ」
何度もそう言って千花に微笑みかけるおばあさんを見て、昨日イライラしていたことはもうどうでも良くなってしまった。
「お母さん」
呼ばれて、おばあさんが顔を上げた。
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