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「すみません、うちの母が……赤ちゃん見るとすぐこうやって話しかけるから……ほら、行くよ」
「あ、全然大丈夫です」
急な登場にびっくりしていたら、娘さんらしき人が口を開いた。
「弟が病気で二歳まで生きられなかったんです。それもあって、赤ちゃんがかわいくてかわいくて、つい余計なことを言っちゃうんです」
――生きてるだけで感謝――
おばあさんにとって、生きてさえいてくれれば……それだけで充分ありがたいことなんだ。子供を失う辛さは計り知れない。背景を知って、その言葉の重さが増してくる。
「おばあさん」
二人が私の声で振り向いた。
「また千花と遊んであげてください」
おばあさんは「ありがとう、またね」と千花に手を振った。私も小さな手をとり、おばあさんに振り返した。
「子育ては大変だけど頑張ってね。私ももうすぐ孫が産まれるから、余計なこと言わないようにしないとね」
私の母と同世代っぽい娘さんがおばあさんの手をひいて階段へと消えた。
「じゃあ、買い物に行きますか」
ベビーカーを押す私は、清々しい空気を吸い込んで、一歩一歩前へと進んだ。
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