愛おしい我が子

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 外はうっすら月明かり。どこかで猫が気味悪い鳴き声を響かせている。眠い。私は睡魔に襲われている。目を閉じたら秒で寝れる自信がある。  私の腕の中で、かわいい千花(ちか)が二時間も泣き続けている。やっとの思いで眠らせて、布団に寝かせようと背中がそれに触れた途端、スイッチが入ったかのように再び泣きはじめる。そして、奈落の底へ突き落とされた気分になる。あぁ、また一からやり直しだ。  眠気で意識が飛びそうな自分を奮い立たせた。一定のリズムで背中を優しく叩きながら、窓の外の闇をのぞく。  市営住宅が三棟並ぶこの場所は、いつもどこかで赤ちゃんの鳴き声が聞こえている。  そう、私だけではない。寝ないのはうちの子だけじゃない。頭では分かっているのに、手を尽くしても報われない現実に、母親としての自信はあっという間に消え失せた。そして、追い討ちをかけるように、旦那に「うるさくて寝れない」と寝室を追い出された。  壁掛け時計の針は、三時を過ぎた。今日は何時に寝れるだろうか。  月の光に誘われて、私はゆっくりと掃き出し窓を開けた。ベランダに出ると、身体をなでる夜風が心地よく抜けていった。  ほぅっと息を吐く。腕の中で千花は相変わらず泣いている。 「寝ないのかい?」
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