20人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
外はうっすら月明かり。どこかで猫が気味悪い鳴き声を響かせている。眠い。私は睡魔に襲われている。目を閉じたら秒で寝れる自信がある。
私の腕の中で、かわいい千花が二時間も泣き続けている。やっとの思いで眠らせて、布団に寝かせようと背中がそれに触れた途端、スイッチが入ったかのように再び泣きはじめる。そして、奈落の底へ突き落とされた気分になる。あぁ、また一からやり直しだ。
眠気で意識が飛びそうな自分を奮い立たせた。一定のリズムで背中を優しく叩きながら、窓の外の闇をのぞく。
市営住宅が三棟並ぶこの場所は、いつもどこかで赤ちゃんの鳴き声が聞こえている。
そう、私だけではない。寝ないのはうちの子だけじゃない。頭では分かっているのに、手を尽くしても報われない現実に、母親としての自信はあっという間に消え失せた。そして、追い討ちをかけるように、旦那に「うるさくて寝れない」と寝室を追い出された。
壁掛け時計の針は、三時を過ぎた。今日は何時に寝れるだろうか。
月の光に誘われて、私はゆっくりと掃き出し窓を開けた。ベランダに出ると、身体をなでる夜風が心地よく抜けていった。
ほぅっと息を吐く。腕の中で千花は相変わらず泣いている。
「寝ないのかい?」
最初のコメントを投稿しよう!