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恐ろしい「死」に包まれた大地は、長い年月をかけて「生」に変わっていきます。
魔法使い達による激しい魔法大戦が行われた荒れ地は、長い年月をかけて大きな森となりました。漂っていた濃い魔力が、種を芽吹かせ、成長させ、森を作ったのです。
森ができれば動物達も姿を現します。いまではその場所は、命に溢れた場所になりました。
生命力と魔力に溢れた場所である証に、そこには妖精の姿もありました。
羽を持つ小人のような彼らは、魔法の扱いに長けた種族でした。彼らがどこからやってきたのか、誰も知りません。本人達に尋ねても、わからないと答えます。
そんな妖精達は、歌を歌うのが大好き。誰かが歌い始めれば、ほかの誰かが声を重ねます。またそこにほかの妖精が加わり、森は常に、妖精の歌声がせせらぎのように流れていました。
時に妖精は、古い時代の遠い国の歌うこともありました。
どうしてそんな歌を知っているの、と人間が尋ねれば、妖精達は首を傾げます。
「さあ。なんでだろう。でも知ってるんだ」
「へえ。この歌、そんな遠い国の歌で、そんな名前だったんだ」
「誰から教えてもらったわけでもないよ。行ったこともないよ。でも、なんだろう、ずうっと昔の記憶の中にあってね、これを歌ってるのが好きだったんだ。歌ってるときだけ、安心できたというか、幸せだったんだ」
――かつてゾンビとなってしまい、土に還るのを待っていた魔法使い達は、漂う濃い魔力のために、無になることはできませんでした。
しかし新しい種族として、彼らは妖精になったのです。
妖精は今日も歌を歌います。かつてゾンビ達が歌っていた歌を。
【終】
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