フリータイムが終わるまで

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「今日カラオケ行こうぜー」  ノリで始まる、よくある話。  そんなに明るい人間じゃないが、俺は一応多めの人数でも誘われるライン。  行くよな、と確認して回ってくる間。  歌は好きだけど、大人数で行くのは好きじゃない。  どうやって断ろうかを考えていると、もっと明るい奴があっさり断った。 「今日はパス」 「なんだよノリ悪いな」 「あん? ノリだけで全部いってたら自分のやりたい事出来なくなるだろー。友達の人生責任取れるのかー?」 「そりゃ取れねぇわ」 「だろー? じゃ、オレはパス!」 「ま、たまにいない静けさというのを楽しむのも乙なものだな」 「……オイ、俺がうるせぇみたいじゃねぇか」 「んな事いってねぇよ、騒がしいって言ってんだよ」 「一緒だろそれー!」 「んなことねぇよー!」  断っても楽しげなことなんてあるのか。  ぼんやり目の前の出来事を眺めていたら、俺の方を指さされた。 「お前は行くよな!」 「え? あ、ごめん。今日は用事がある」 「なんだよお前もノリ悪いなー!」 「だーからノリで全部行ってたら」 「わかったよ、用事気を付けてなー! 行くやつー!」  思っていたよりもあっさり断れた。  それに、何気なく入って来てくれたので話題がそれるのも早かった。  行くやつを引き連れて、クラスメイトが教室を出ていくのをぼんやりと見つめた。  気付けば教室の  間に入ってくれた奴がいつの間にか俺の方を見ていた。 「……用事は急ぎじゃねぇの?」 「え? あ、ああ……」 「……お前も、嘘?」 「へ?」  他の奴らがもう近くにいないのを確認しながら、小さな声で教えてくれた。 「オレ大人数でカラオケ行くの苦手なんだよ、歌うのは好きなんだけどさ」 「あ、俺も」  相手が少し恥ずかしそうに言ってくれたのがよかったのか。。  思わず俺もぽつりとつぶやいていた。 「……あいつらが行かない安くて画面でかくて、ドリンクバー付けるとソフトクリーム食べ放題になるカラオケ知ってんだけど、いかねぇ?」 「男、二人で?」 「そう、男二人で。……歌うのは好きなんだろ?」 「うん。騒ぐよりも時間一杯、沢山歌いたいというか」 「わかるわかる! オレもそう。一人で行くにはちょっと敷居が高いというか」  一人でカラオケに行こうとして、先日思いとどまったので気持ちが分かりすぎた。  物凄く都会というわけではないこの町は、広めの部屋かパーティールームしかない。  目の前の人物とは別に、すごく親しいってわけではない。  もっとノリが良くて元気な奴より、一緒にいて楽だなとは思ったことはあった。  そこそこの位置には居るけど、俺は付き合いが上手くはない。  一方でこいつは、昔から人との距離の取り方がちょうどいいのだ。  家が近い、というだけで続いてきた腐れ縁。  周りに話すことはなかったけれど、その関係は今も続いていた。 「行こうか、二人で」 「おう!」  ササっと鞄に中身を詰めて俺は立ち上がる。  教室を出ようとしたところで、肩をぐっと掴まれた。 「なんだよ?」 「あいつら話してて動きが遅いことがあるからな、気を付けて行こうぜ」 「……なるほどね」  振り返るとそいつは、イタズラをする前の子供のような楽しそうな笑みを浮かべていた。  二人で寄り道した後、俺達はフリータイムが終わるまで歌い続けたのだった。
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