夜を歌う

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 マリアが歌っていた。  異国の民謡なのか、ゆったりとしていて、長く伸ばす音が多い。  歌詞はまったくわからない。日本語でも英語でもない響き。  マリアの金色の髪が、初夏の夜風にさらりと撫でられた。絹のような長い髪。時にその髪が獲物を絡めとる。  私は、自ら絡めとられる道を選んだわけだけど。 「マリアって、きれいな声だよね」 「あら、お帰り、千夜子」  寝待月を背にして、マリアが私を見てほほ笑んだ。  今日の私は、このほほ笑みが悲しい。  窓辺に腰かけるマリアに近づき、その膝に頭を乗せた。 「あらあら、今夜の千夜子は甘えん坊さんね」  愉快そうに言って、私の黒髪に指を通す。  私は目を閉じ、マリアのされるままになりながら、ぬくもりとその存在を確かめる。大丈夫、マリアを感じられる。つまり、私も"ここ"にいる。 「なんか、毒気が抜かれるくらい純朴な()だった。失敗したわ」 「ふふふ、千夜子は見た目にこだわり過ぎるのよ。面食いってわけじゃないのに」 「あら、私、趣味はいいはずよ。マリアを選んだくらいだし」 「それは認めてあげる」 「あーあ、久しぶりにごちそうだと思ったのに」 「残念だったわね」  そう言って優しく笑うと、マリアはまた小さな声で歌い始めた。
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