王子、魔将軍に遭遇する

8/8
前へ
/12ページ
次へ
 俺を含め、たくさんの人間が走っているにもかかわらず、城内は思いのほか走りやすい。だだっ広いからだろう。不幸中の幸いだ。  だが、どこまで逃げられるのだろうか。  そんなことを考えていると、背後から声が聞こえてきた。  それはぶつぶつと念仏でも唱えるような声だった。  念仏……? いや、ちょっと違うぞ。呪文か?  そう思っていると―― 「うぉわっちいぃっ!!!」  尻の辺りに、熱した金属を当てられたような激痛を感じた。  振り向くと、尻が燃えているではないか!  そして――  魔将軍がワイバーンに乗りながら、こちらを追いかけてきている。 「はーっはっはっはっ! 無様だな!」  魔将軍の高笑いが、耳に入ってくる。  尻の炎は、魔将軍の仕業だろう。先程の呪文で着火させたに違いない。 「言っておくが、今のはお遊びだぞ。すぐに死なれたらつまらないからな」  奴は俺に対して舐めプをしているらしい。  (しゃく)だが、奴が俺を舐めているのをいいことに、隙を見つけて逃げ出すことができれば…… 「だが、こんな奴とはいえ、伝説の勇者の血が流れている。脅威の芽は今のうちに摘んでおかねばなるまい。覚悟!」  俺の考えは甘かった。  奴は俺を本気で殺す気だ! 「うわあああぁーっ!!! あっ!」  こけてしまった。  俺はここで死ぬのか?  ろくでもない前世だったのに、転生したら、さらに惨めな死に方をするというのか?  嫌だ! 嫌だ!  こんなことが許されていいのか!?  異世界転生といったら、チートスキルを与えられて、無双するというのが定番だろ!  どうして! どうして!  ……あ。  何か出てしまった。  だが、そんなことどうでもいい。  逃げろ! 逃げろ! 逃げるんだ!
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加