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思えば前世はろくなものではなかった。
必死で勉強したのに、入れた大学は二流。
IT企業に正社員として就職したものの、実態は派遣社員と変わらず。しかも深夜残業の連続で終電ぎりぎり。
年末進行で納期が迫っていたある日のこと。
その日もいつものように残業は夜遅くまで続いていた。
深夜残業を終え、会社を後にする俺。
外に出て、空気の冷たさを感じ取った途端、胸に激痛が走った。
「うっ!」
目の前がどんどん暗くなり、敷石が迫ってきた。
気が付くと、俺はふかふかしたベッドの上にいた。
しかも、辺りを見回すと、室内はやたらと豪華で、床にはワインレッドのじゅうたんが敷かれていた。
俺の部屋にはベッドもじゅうたんもなかったはずだ。
違和感はそれらだけではなかった。
ナイトガウンを身に着けていた。
ナイトガウンなんて持っていなかったはずだ。寝る時は基本的にパジャマ。暑い時に限りパンツ一丁。
ナイトガウンから露出した肌を見ると、妙につやつやしている。俺の肌は、ここまでいいものではなかった。
部屋の中に鏡があるので、そちらに向かい、自分の姿を見てみる。
そこに映っていたのは、俺の姿ではなかった。
俺は既にいい年こいた大人で、最近、三十歳になったばかり。
だが、鏡に映っている人物は、どう見ても十代後半くらい。
しかも、俺よりイケメン。
だが、この顔……どこかで見た覚えがあるぞ。
どこで見たのか、ひたすら記憶の糸を手繰り寄せる。
思い出した。
学生時代にプレイしたRPGの主人公だ。
逆立った髪の毛、あどけなさを残しつつも精悍な顔立ち。間違いない。
確信した。
ここはゲームの世界であり、俺は主人公である勇者、すなわち、ナーロスター王国の王子に転生した、ということを。
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