王子、魔将軍に遭遇する

5/8
前へ
/12ページ
次へ
 スライムとゴブリンの死骸のそばに、貨幣が数枚落ちている。  魔物を倒した時の報酬だな。  貨幣を回収しようとしたその時―― 「貴様がナーロスター王国の王子か?」 「ああ、そうだ」 「んんんん」とは生前、俺がゲームプレイ開始時に、主人公に付けた名前だ。  最初は「ああああ」にしようと思ったが、あまりにもひねりがなさすぎるので、「んんんん」にしたのだった。  そんなことを思い出しながら、声がした方を向くと、そこには――  若い男がいた。 「う、嘘だろ……」  切れ長の目に高い鼻、無駄な膨らみのない顔の輪郭、背が高くスマートな体形。はっきり言ってイケメンである。  だが、目つきは悪く、顔色も悪い。この顔色の悪さは、病気によるものではなく、悪魔に魂を売ったからそうなったという印象を受ける。ついでに、彼が身に着けている漆黒の(よろい)も禍々しい印象を受ける。  俺は、この男に見覚えがある。  魔将軍と呼ばれる、魔王軍の幹部の一人だ。  どうして、こんな所に……?  奴はストーリー後半で戦うボスのはずだ。  何回もやり込んだが、スタート地点付近で遭遇するというイベントは、一度も発生しなかった。  しかも、いるのは奴だけではない。  スケルトンナイト、ゴーレム、ダークパープルデビル、ドラゴン、ワイバーン等々……、数えきれない程の魔物が、奴の背後にいる。 「んんんんよ、今の戦いを拝見したが、お前の強さはその程度か?」 「…………」 「はっきり言って、私の敵ではない」  悔しいが、奴の言う通りだ。  俺は奴に背を向け、ダッシュした。 「逃げるのか? 追え!」 『『『はっ!』』』
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加