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スライムとゴブリンの死骸のそばに、貨幣が数枚落ちている。
魔物を倒した時の報酬だな。
貨幣を回収しようとしたその時――
「貴様がナーロスター王国のんんんん王子か?」
「ああ、そうだ」
「んんんん」とは生前、俺がゲームプレイ開始時に、主人公に付けた名前だ。
最初は「ああああ」にしようと思ったが、あまりにもひねりがなさすぎるので、「んんんん」にしたのだった。
そんなことを思い出しながら、声がした方を向くと、そこには――
若い男がいた。
「う、嘘だろ……」
切れ長の目に高い鼻、無駄な膨らみのない顔の輪郭、背が高くスマートな体形。はっきり言ってイケメンである。
だが、目つきは悪く、顔色も悪い。この顔色の悪さは、病気によるものではなく、悪魔に魂を売ったからそうなったという印象を受ける。ついでに、彼が身に着けている漆黒の鎧も禍々しい印象を受ける。
俺は、この男に見覚えがある。
魔将軍と呼ばれる、魔王軍の幹部の一人だ。
どうして、こんな所に……?
奴はストーリー後半で戦うボスのはずだ。
何回もやり込んだが、スタート地点付近で遭遇するというイベントは、一度も発生しなかった。
しかも、いるのは奴だけではない。
スケルトンナイト、ゴーレム、ダークパープルデビル、ドラゴン、ワイバーン等々……、数えきれない程の魔物が、奴の背後にいる。
「んんんんよ、今の戦いを拝見したが、お前の強さはその程度か?」
「…………」
「はっきり言って、私の敵ではない」
悔しいが、奴の言う通りだ。
俺は奴に背を向け、ダッシュした。
「逃げるのか? 追え!」
『『『はっ!』』』
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