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俺を含め、たくさんの人間が走っているにもかかわらず、城内は思いのほか走りやすい。だだっ広いからだろう。不幸中の幸いだ。
だが、どこまで逃げられるのだろうか。
そんなことを考えていると、背後から声が聞こえてきた。
それはぶつぶつと念仏でも唱えるような声だった。
念仏……? いや、ちょっと違うぞ。呪文か?
そう思っていると――
「うぉわっちいぃっ!!!」
尻の辺りに、熱した金属を当てられたような激痛を感じた。
振り向くと、尻が燃えているではないか!
そして――
魔将軍がワイバーンに乗りながら、こちらを追いかけてきている。
「はーっはっはっはっ! 無様だな!」
魔将軍の高笑いが、耳に入ってくる。
尻の炎は、魔将軍の仕業だろう。先程の呪文で着火させたに違いない。
「言っておくが、今のはお遊びだぞ。すぐに死なれたらつまらないからな」
奴は俺に対して舐めプをしているらしい。
癪だが、奴が俺を舐めているのをいいことに、隙を見つけて逃げ出すことができれば……
「だが、こんな奴とはいえ、伝説の勇者の血が流れている。脅威の芽は今のうちに摘んでおかねばなるまい。覚悟!」
俺の考えは甘かった。
奴は俺を本気で殺す気だ!
「うわあああぁーっ!!! あっ!」
こけてしまった。
俺はここで死ぬのか?
ろくでもない前世だったのに、転生したら、さらに惨めな死に方をするというのか?
嫌だ! 嫌だ!
こんなことが許されていいのか!?
異世界転生といったら、チートスキルを与えられて、無双するというのが定番だろ!
どうして! どうして!
……あ。
何か出てしまった。
だが、そんなことどうでもいい。
逃げろ! 逃げろ! 逃げるんだ!
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