第1話 蛙との出会い。

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第1話 蛙との出会い。

 落胆。  絶望。  諦め。  ある非情な結果に打ちのめされ、暗い気持ちを全身に纏い、途方に暮れたまま彷徨い歩く1人の20代後半女性。  ――私である。 「……落選理由が"中途半端な知名度"、って1番キツイ理由だよ……」  いっそのこと、完全に無名だった方がよかったとまで言われた。  まるで、これまでの努力が全く無駄だったかのような否定のされ方。 「最後の望みもダメだった」  売れない歌手、シンガーソングライターである私は、「無名の歌手」であることが条件の、ある実在の歌手の実話をベースにしたノンフィクション映画のオーディションに落ちてしまったのだ。  アレが最後の希望だったのに。 「もうこの世で生きてる意味ない」  トボトボと彷徨い歩いていると、見知らぬ場所、池のほとりに立っていた。  何処かの公園の池なのかな。  時期的に梅雨始めだからか、ゲロゲロといった蛙の鳴き声が合唱している。  蛙でさえも楽しそうに歌っているのに、私ときたら。 「……死ぬ前に、最後だけでも楽しく歌って終わろうかな」  私は、一曲だけ、気持ちヒットした唯一の持ち歌を、命を込めて歌った。  聴衆は蛙たちだけ。  歌い終わり、涙が一筋零れた。  途中から、蛙の鳴き声は止まっている。  もう思い残すことは何もない。 「最後に歌えたし、悔いはないわ。この池に入って死のう」  そう言って、靴を脱いで揃える。  柵を越えようとした、その時だった。 「ちょっとちょっとそこの人」ケロ 「だ、誰ですか?」 「ここ、ここだよ」ケロケロ 「ええっ……か、蛙さんが喋ってるの?」 「そうだよー」ケロロ  信じられないことに、そこには小さな3センチくらいの喋るアオガエルがいた。 「アンタ、その池で死のうとしてるんだろ」ケロロ 「そうよ。邪魔しないで! 才能が無い私はもう死ぬしか無いの」 「俺の話聞いてくれたら邪魔するつもりはないけど」ケロロロ 「話? 何よ」  死を目前にして、とうとう幻覚を見るようになってしまったようだ。  何だか面白くなってしまった私は、この得体の知れない蛙の話を聞いてみる気になった。 「どうせ死ぬんだったら俺と代わってくれないかなーって。蛙だけに」ケロロ、ケロロ  自分の蛙ジョークに、ウケている蛙。  よし帰ろうか。  って、私も心の中で蛙ジョーク仲間になってしまった。 「貴方とカワル? 何を」 「俺とアンタの人生を交換しないか。アンタがウンと言えば、俺は君の体に入り、アンタは俺の代わりに蛙になる」ケロロケロ 「何言ってるの、イヤよ! 例え自殺する命でも蛙なんて絶対ムリ」  蛙になってどうするの。  毎日することもなく、虫食べたりするんでしょ。
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