ねこもち

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「さぁ、どうぞこちらへ」  流されるままに美女に案内された。普段なら、初対面でゆっくりしていかないか、と尋ねられ、手を引かれでもしたら怪しむ一択だ。  だが、日々の残業で思考が鈍っていたのか、はたまた美女の芳しい色気に誘われたのか……。どちらにせよ、俺は美女が営む店の中へと、足を踏み入れたのだ。   中は、和風な空間が広がっていた。オレンジ色の照明が、石畳の床や木目が所々ある壁を照らし、何処となく肩の力が抜けた。目の前には、ショーケースがあり、何やら妙な形をしたものが並んでいる。  ジッと目を凝らしていると、横に控えていた美女が急に何かを差し出してきた。俺は思わず後ずさったが、美女はそんな俺を宝玉のような目を弧にして肩をゆする。 「まあ、失礼。驚かせるつもりはなかったのですよ」  ただ、これを渡したかっただけですの。  そう言って、美女は視線を落とす。辿ると、傷一つついてない美女の手の中に、猫の形をした餅大福が収まっていた。何で書いたのだろうか。つぶらな瞳と逆三角形の鼻、そこから小さな丸みを二つ帯びた口が、何ともいえない、むずむずした気持ちを呼び起こす。  いつからそれを持っていたのだ……。一瞬そう思い至ったが、次の美女の動作で容易に吹き飛んだ。 「こちら、当店自慢の『ねこもち』というものです。形も味も、とてもこだわって作りましたの……はい、あーん」 茶目っ気たっぷりに、ねこもちを指三本で掴み、俺の口へと運んでいった。当然身じろぎ、さらに美女から距離を取る……普段の俺なら。  特段、今の所腑が煮え繰り返るほどの、熱さを持ち合わせていない。それどころか、美女に甲斐甲斐しく食事をさせられる、という行為が、心地良く感じた。それに、ねこもちは俺が大好きな猫の形であるし、丁度腹が食べ物を欲して鳴いている。  だから、別にこのまま口の中に入れたって……。  俺の唇に、柔らかい感触がした。美女はねこもちが食まれた事を確認すると、手を引いた。  つうっと平たい餅の筋が、一つ伸びていく。なかなか切れずに、美女はさらに手を引いた。だが、後を追うように、餅は伸びた。俺は、このまま切れてほしくないと感じた。 そうしたら、美女の微笑んだ顔が、もっと長く見る事が出来るから。  だが、餅の筋はぷつりと呆気なく切れた。  まあ、そう上手く事は運ばないよな。  俺は「ニャア……」とため息をついた。 食感は餅の弾力が歯に馴染むぐらい良く、 原材料:猫 猫好きな主人公、店に走る。 猫になっている。 主人、おや、早速材料が来ましたね。
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