プロローグ

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国を乗っ取った一族は、ディマ公爵家の人間。取得した広大な土地に、彼らの公国・オルソ公国を建国した。それはざっと100年前のこと。今は、若くして国を継いだ4代目・アステル・ド・ディマが統治している。 広大だが酸性度が強く痩せた大地には、葡萄がよく育った。ワインづくりが盛んになり、名産としている。 *** 40代で亡くなった3代目公主の喪が明けるやいなや、アステルは盛大な宴を催した。親が死んで日が浅いのに、と、眉を顰める者も少なくなかったが、彼は気にしなかった。 「俺がこの国を率いるということを、きちんと知らしめる必要があるからな。親父もきっとわかってくれるはずだ」 宴は無礼講を謳い、多くの客が就任の祝いを述べに訪れた。新たな公主にぜひ芸を披露し、宴を盛り上げたいと申し出た旅芸人の一座さえ一も二もなく歓迎された。 *** 旅芸人の一座は、公主にいたく気に入られた。特に、甘美な歌を情熱的に歌い上げる美しい歌姫に夢中になった。跡継ぎが生まれない妻との冷え切った関係に嫌気がさしていたこともあり、彼は歌姫と甘い夜を過ごした。 「俺は公主だ、何の問題がある?」 *** 半年後の嵐の夜。この歌姫が屋敷に飛び込んできた。彼女は告げた、あなたの子を身籠っている、父には言えない、きっと殺されていしまう—。 公主は先代から公爵家に仕えている医師のティランに、彼女のお腹の子が確かに公主の子かを確認させ、間違いないとの回答を得る。 これは、好都合。歌姫をここに留まらせて、子どもを産ませよう。その間に、妻が妊娠したと触れ回っておけば、誰にも気づかれることなく、子どもを夫婦の実子として育てられる。 腹は借り物だと言うではないか、子どもは、自分の血さえ受け継いでいればいい。 もちろん、婚外子と公言し育てることも選択肢としてはあるだろうが、それは得策ではない。公主は考えた。俺のように社会的地位がある者は、そうしたことにも気を使うべき。何より、妻の実家はそれなりに権力がある。敵に回すよりも妻を懐柔したほうがいい。 完璧な考えに思えたが、歌姫は反発し訴えた。私の子よ、誰かに渡すなんて嫌! ただお金をもらえたら、子どもと2人、ひっそりと暮らすから―。
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