1

1/1

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

1

 街のみんなが集う公園にはからくり時計が設置されていました。毎日午後五時になると、本体の周りに置かれている人形達が躍り出す仕掛けになっています。そして、文字盤の正面に立つ歌姫の人形がオルゴールの音で歌い、夕暮れを知らせてくれます。人形達が躍り終わると、子供達はそれぞれの家へ帰って行くのでした。  ある春の日。街へ立ち寄った一羽の小鳥が公園で一休みをしていました。ほんの少しの休憩のつもりだったのに、気が付けばぐっすり眠っていて夕暮れになっています。仲間の鳥達は一足先に森に帰ってしまったようでした。 「あぁ、参ったな。うっかり寝すぎちゃった」  真っ暗になってしまう前に飛んで行かないと。小鳥は顔を起こして、翼を広げました。  その時です。 『ラララ、ラララ、ラララ』  からくり時計が午後五時を告げます。一日かけて回った歯車が人形達を動かし、オルゴールを奏でます。 「わぁ、素敵な歌だなぁ」  小鳥は仲間達と共に歌うことが大好きでした。  今聞こえている歌は誰が歌っているのかしら? 音の聞こえる方へ飛んで行くと、からくり時計の前で歌姫の人形が歌っているのが見えました。 「こんにちは! あれれ、もう、こんばんはかな? こんばんは! 素敵な歌だね」 『ラララ、ラララ、ラララ』 「これは何の歌?」 『ラララ、ラララ、ラララ』  歌姫はオルゴールの音を出しているだけで、言葉を話すことはできません。 「ぼくも一緒に歌ってもいい?」 『ララ……』  歌姫の歌が止まり、周りの人形達も踊りをやめました。遊んでいた子供達が手を振り合って帰って行きます。 「素敵な歌だった! また聞きに来てもいいかな」  歌姫が小鳥の質問に答えることはありません。 「駄目ではない……んだよね。うん。また来るね!」  子供達の背中を空から見送りながら、小鳥は仲間達の待つ森へ帰って行きました。静かになった公園では、からくり時計が明日のコンサートに向けて歯車を回し始めます。  それから、毎日のように小鳥は午後五時の公園を訪れました。歌姫の人形と一緒に歌を歌います。  子供達はオルゴールに乗せて囀る小鳥のことを見守っていました。歌姫の歌を素敵だと褒めた小鳥の歌を、子供達が素敵だと褒めます。  やがて、小鳥の仲間達も歌に加わるようになりました。からくり時計の周りで歌って躍る人形達と、歌姫と、小鳥達。素敵なコンサートを見届けたら、家に帰る時間。小鳥達や子供達は、森や家に帰って行きます。  いつも、最初に歌姫と歌った小鳥が最後に残りました。 「今日もありがとう、お嬢さん。歌だけじゃなくて、おしゃべりもできたらいいのにな」  今日の仕事を終えた歌姫は微動だにせず、何の音も発しません。いつも少しだけ寂しそうに笑ってから、小鳥は森へ飛んで行きました。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加