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ある冬の日。日が暮れた公園は静寂に包まれていました。
日が短くなって子供達はもう帰っていましたが、いつものように小鳥達は待機していました。
おかしいね。踊らないね。歌わないね。どうしたのかな。小鳥達が疑問の声で囀ります。
おかしいね。なんでかな。歌わないね。不思議だね。その日、小鳥達は歌わずに森へ帰って行きました。
次の日、時計の管理をしているおじさんが様子を見に来ました。おじさんは時計や人形達のことを確認して、深く深く溜息を吐きました。
からくりの仕掛けが壊れてしまったのです。集まっていた人達は、子供も大人も残念そうです。
ずっとずっと昔に作られたからくり時計の仕組みを知っている人は、今はもうほとんどいませんでした。知っている人も、すっかり年を取ってしまったおじいさんやおばあさんで、作業をすることや説明をすることはなかなか上手にできそうにありません。材料を集めて作り直すことは難しいだろうと、おじさんは言います。
時計は壊されてどこかへ持って行かれてしまうの? 訊ねた子供に、おじさんは首を横に振りました。壊れてしまったのは人形達の仕掛けの部分だけでした。時計本体は元気いっぱいです。人形達は動かぬオブジェになってしまいましたが、時計が皆に時間を知らせることはこれからもできるのです。
小鳥は人々の足元でその話を聞いていました。
その日の夜。小鳥は森の寝床を抜け出して街へやって来ました。公園に到着すると、迷うことなくからくり時計へ向かいます。暗闇はあまり得意ではありませんでしたが、毎日毎日通っていたので時計の位置は分かりました。
「やあ、お嬢さんと仲間のみなさん。こんばんは」
人形達は答えません。
「みんなの踊りをもう見られないんだと人間達が言っていたよ。貴女の歌も、ぼくはもう聞くことができないんだね。最後まで、お話もできなかった」
歌姫は僅かに口を開けて、優しい目で小鳥のことを見つめています。
「歌と踊りがなくても、大丈夫なんだって人間は言っていたよ。みんなの後ろにある時計というものは残るから、いつものコンサートがなくなってもコンサートの時間が分かるんだってさ」
でも、やっぱり寂しいな。零れた小鳥の声に、歌姫は何も答えません。
「いつかまた、貴女の歌を聞けるかな」
雲が動いて、月明かりが差し込みます。
動いた影によって、歌姫が頷いたかのように小鳥には見えました。ぱあっと小鳥の表情が明るくなります。
「ずっとずっと昔からここにいる貴女が再び歌える日は、ずっとずっと先になるかもしれない。その時まで、貴女が、みんながコンサートの時間を忘れてしまわないように、ぼく達が歌い続けよう。そうすればきっと、貴女はあの時間を忘れないよね」
小鳥は空を見上げて、翼を広げました。
「いつかまた、貴女の歌を聞けますように。貴女と共に歌えますように。いつか、また……。必ず」
飛び立った小鳥の翼から落ちた羽根が一つ、歌姫の前に下りて来ました。歌姫はそれを見下ろすこともなく、静かに優しい目で小鳥の後ろ姿を見つめていました。
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