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また、最初から 10
その日、他に客がいなくてよかったと思わざるをえない。
後に、当然にその場にいたマスターには彼女が不在の時に「熱かったな」と声をかけられ、「まあ、よかったんじゃないか」と肩を二度ほど叩かれた。
積年の思いが年月によって熟成され、言葉となってほとばしっていた。
抱いてほしくなかった後悔と卑下が彼女の口から表れたことで、それに対する反論という形を借りて、当時の感情や彼女への憧憬などの激情が今が出番だとばかりに姿を見せ、十年近くぶりに彼女への気持ちを再認識させていた。
そして、新鮮な気持ちを覚えさせていた。
長広舌を振るう僕の熱量を、はじめはポカンとした表情で彼女は受け止めていた。
しかし、その顔は僕が口を開くたびに様々な色調を帯び、体はモジモジと恥ずかしげに動き、「さすがに、もう、ちょっと、そこまでに」と彼女に強く制止されてはじめて、僕は僕の熱弁を意識して顔が熱くなった。ただ、胸に生じた爽快感は僕自身の行動を称賛しているように思えた。
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