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また、最初から 11
「……あの、」しばらく無言が続いた後に、彼女にそう声をかける。
彼女の顔はどこか赤く、わずかに唇を噛んでいた。ううん、というマスターの咳払いが、店内に大きく響いて聞こえた。
「……あの、」ふたたび繰り返す僕の言葉に、はい、と彼女が答える。
「今度、カラオケでもどうでしょう」声を振り絞るように問うと、「カラオケ、ですか」と今度は彼女が繰り返した。なぜか、互いに敬語になっていた。
「カラオケ、です」彼女の目を見つめる。その瞳が愛おしく思え、ずっと眺めていたいと感じた。そばで、見ていたいと感じた。
「今度、行きましょう。また、歌が聞きたいので」
勇気を出してそう言った僕に、少しだけ間を空けた後、はい、と彼女が微笑みながら答えた。ふたたび、時間が流れ出すのがわかった。
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