また、最初から 2

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また、最初から 2

彼女が商店街で歌っているのを見かけたのは、今から十年近く前の、高校時代のことだ。 彼女も同じく高校生で、僕たちはクラスメイトだった。 放課後、親に頼まれた僕は総菜かなにかを買いに、商店街を歩いていた。当時の商店街は現在よりは栄えていたとはいえ、閉店し放置されていた店舗も多く、下ろされたシャッターの数々を眺めながら、歩を進めていた。 そのようにして、愉快とはいえないお使いを遂行しようとしていた際、突然、遠くの方から音楽が聞こえた。それは当時流行していたポップスで、音割れのした、良質とは言いがたい音質だった。 誰かが、商店街を活気づけるために、流しているんだろうか。 そう思いながら歩いていると、イントロが終わり、次いで聞こえたのは明らかな肉声と思われる歌声で、それは商店街のやや静かな空気のなかに、違和感を伴いながら響き渡っていた。 この歌は、なんだろう。 興味が湧いた僕は進路を変え、歌声の発生源と思われる方向に足を向けた。金物屋などが点々とある通りを進むと歌声と音楽は徐々に大きくなり、進路が正しいことを僕に確信させた。 音量の適正さや音質自体はよいとはいえないものの、歌は上手い方だと思えた。高らかな澄んだ声は、その持ち主を確認したいという欲求を覚えさせるのに十分なものだった。 結果として、歌声を響かせていたのは、他ならぬ彼女だった。 その姿を視認するやいなや、僕は近くの物陰へと隠れ、眼前の光景を受け入れるのに少々の時間を要した。 クラスで見る彼女の様子と、目の前で存在感たっぷりに歌う歌手然とした姿とは、歴然とした差があったためだった。 彼女は何曲か歌った後、周囲にいた何人かの人々に「ありがとうございました」と一礼し、使用した道具の片づけをはじめた。僕はその様子を、なかば呆然としながらもしばらく見続けていた。
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