また、最初から 5

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また、最初から 5

彼女との再会を果たしてから、僕は時間のある週末に喫茶店に通うようになった。 そこに彼女がいるから、というのが動機であったことは確かだが、通ううちに店の雰囲気や美味しいコーヒー、チャーハンをはじめとした喫茶店としては個性的な料理も好きになり、いつしか喫茶店通いは僕の生活の一部となっていた。 彼女のシフトが入っていない日もコーヒーや料理を味わいに赴き、次第にマスターとも、気兼ねなく話せる仲になっていた。それはマスターが外見の渋さに反してざっくばらんな、良い意味で心のドアを思いっきり開けてくれるような性格だったのが理由のひとつで、世間話やちょっとした相談がしやすい、心の休まる場所に出会えた思いだった。彼女の前では話せないようなことも、マスターには打ち明けることができた。 彼女と気軽に話せる間柄になれたのも、マスターのおかげだといえた。 初回こそ、緊張で通常の店員と客のやり取りをこなすのがやっとだったが、その後は通うにつれ徐々にではあったものの、私的な会話もできるようになった。彼女は、僕のことを覚えてはいなかった。直接的な交流がなかったためか、年月の経過によるものか、僕があまり存在感のない生徒であったためか。また、商店街での歌唱を僕が見ていたことにも、彼女は気づいていなかった。僕にとってはそちらの方が都合がよかったのもあり、同い年の単なる利用客として、喫茶店に通いつめた。 喫茶店には主に週末に赴いていたのだが、僕が行く時間帯には空いていることが多々あり、貸し切り状態のときもあった(マスターに言わせれば「お前が来るときにたまたま客がいないだけ」とのことだったが) そうした、他に接客の必要性がない場合には彼女と会話することができた。 喫茶店は個人営業であり、店長であるマスターは店員である彼女の私語に寛容だった。むしろ話題を提供するなど僕と彼女の交流を積極的にサポートしてくれ、店が暇なタイミングで僕と彼女は互いの近況や趣味などを語らうなど、少しずつ交友を深めていった。 彼女は穏和で、淡く微笑む様が絵になる人だった。高校時代のクラスでの印象もあってか、昔と今との差異に僕の心は少なからず動かされ、喫茶店に通うたびに心の動きは大きくなっていった。 年月がそうさせたのか、環境がそうさせたのか、それとも人間関係がそうさせたのか。きちんとした交流をはじめて間もなかった僕には判別のしようがなかったが、穏やかながら明るく接客をする彼女の姿を、食事をする際にもコーヒーを味わう際にも、僕は自然と目で追うようになっていた。
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