「数字の歌」

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 「多分、気のせいだと思うけど、気味が悪くてな…」 他県への出向が多い“S”の体験である。仕事先の会社が用意したのは、作りの古い、元社宅… 住民の数も極端に少ない…まるで、 「ゴーストマンション、〇号棟?そんな映画か、事件なかったっけ?住宅地の真ん中にあるけど、過疎ってて、今回の現場は土日休みだから、結構、近隣の声気にしてたけど、静かだ。だから、ノンビリできるって思ったんだが…」 赴任して、初めての休日…簡単な昼食を終え、部屋の窓を開けた。緑の匂いを含んだ風を体に受け、程よい満腹感に浸りながら、横になった彼の耳に 「いちぃわぁ~いっかい、ばぁばすみー♪にぃはにっかい…ふたつのかけかがみ~♪…」 幼い子供、それも複数が歌う声が聞こえてきた。 自身が幼少時に空き地や公園で歌った、花いちもんめのような歌…歌詞の内容は、初めて聞くモノだった。 「地方独自の童歌かと思ってな。その時はそれで終わった。歌は聞こえていたが、寝オチと言う訳だ。だけど…」 その次の休日…やはり昼頃になると、歌が聞こえてきた。静かな住宅地に響く、子供の歌声…何だか風情がある。自然と聞き耳を立てた。 「(ふたつのかけかがみからの続き)さぁ~んはさっかい、おじがすみ~♪よぉ~んはよっかい、たびのひと~♪」 思わず窓辺から顔を出す。すっかり眠気が飛んだ顔で、静かな住宅地を睥睨し、歌い手達を探すが、見つからない。頬を汗が一筋、流れ落ちるのを感じた。 「俺が住んでたマンションは4階建て、全部の住民を把握してる訳じゃないが、確か、1階は管理人のばあさん… 2階は眼鏡をかけた会社員、荷物運ぶ時にすれちがったから、間違いない。そして、俺は4階、最上階に住んでる。旅の人…あの歌は、このマンションの事を歌ってた。だから、焦った。かなり…そしたら…」 呆然とするSの耳は、はしゃいだような子供達の歌を捉える。 「よぉ~んは、よくない♪えんぎがわぁる~い♪だ~からーとろ~う、そうきめた~きょーうのよーじーにとーりに、とりにいく~♪」 歌を聞き終わったSはすぐに部屋を出た。その日はビジネスホテルに一泊し、会社は体調不良を理由に、本社勤務へ切り替えた。 「聞こえた歌に関しては、自身の気のせいだと思いたい。俺が聞いた最後の歌詞だって、その前の休日にも、同じ歌詞を歌ってたら、夕方の4時か、朝の4時に何か起こる筈。でも起きてない。俺の勘違いだ…ただ」 こうは考える事が出来ると彼は話す。それが部屋を出る事に決めた理由だとも… 「あいつ等は気づいた。こちらが聞いている事にな。だから、歌を変えた。そう考えると不気味だ。多分…いや、気のせいだと思うが」…(終)
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