その声といっしょに

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 歌が聞こえる。誰でも知ってるような童謡だ。けれど終電に乗って帰ってきたようなこんな時間の住宅街で聞こえていいものではないだろう。それに聞こえてくるのは子供の声だ、もちろんもうとっくに寝てないといけないような年齢の。その子の親は子供を寝かせようとしないのだろうか。そうでなくてもこんな時間に外まで聞こえるような歌声は近所迷惑だからと止めないのだろうか。  それにしても懐かしい歌だ。誰から教わったんだっけ。まあ童謡なんかは母親か幼児向け番組からだろうけれど。続きはなんだっただろう。記憶をたどりながらマスクの中でおさまる程度の小声で歌う。誰にも聞こえない声量ならきっと大丈夫だろう。  歌が聞こえる。小さい頃に歌ってたような童謡だ。歌詞を調べようとしたらタイトルがわからないから覚えている歌詞の一部を検索窓に突っ込むような、そんな遠い記憶の歌だ。今も普通に歌われてるんだろうか。きっと歌われているんだろう。けれどこんな時間に聞こえてくるものだろうか。俺だってもう寝ようとしているのにもうとっくに寝ていておかしくないような小さい子供の声で歌は聞こえる。それにこの家は意外と防音性が高くて窓を閉め切ってると町内放送も聞こえないときがある。冷房をつけてる時期だしどこかの窓を開けっ放しにしてるなんてことは考えにくいんだけれど。  そんなことを考えながらベッドに入り微睡む。多分この歌を教わったときの記憶が引っ張り出される。小さかった俺が一緒に歌っている。  歌が聞こえる。最近子どもに教えた歌だ。私が小さい頃に歌っていた童謡で、今も幼児向け番組でやってて懐かしいなと思って子どもと一緒になって歌った。今聞こえてくる声は私の子と同じくらいの子の声だと思う。でももううちの子は寝ている時間だしあの子も寝た方がいいんじゃないだろうか。聞こえてきた歌声に子どもが起きてこないだろうかと少し様子を見るけれど、大丈夫そうだとまた戻る。  やっぱりこの歌は懐かしく感じる。口の中でおさまる程度に聞こえてくる声に合わせて口ずさむ。 『ここ一週間ほど行方不明が続いていますね』 『ええ、それも全て○○市で起きているようですね』 『一週間前は二人、その翌日に三人、さらに二日後に一人、昨日は四人と人数もばらばらで関連性は○○市在住ということくらいらしいです』 『行方不明になったタイミングはわかっている人だけなら夜中なのですが……』 『でも一人暮らしで出勤してこないため同僚が様子を見にいって部屋にいないという形も複数件あるようですし全員夜中にいなくなって発見のタイミングがまちまちであるだけかもしれませんよね』 『そうですね、それにしても行方不明の人の共通点というものが○○市在住という以外年齢も性別もばらばらなんですよね?』 『ええ、そうなんです。けれどこれは関係筋による情報なのですが、○○市在住と言っても行方不明の方たちが住んでいる地域はかなり狭い範囲のようでそこに何かあるという見方もあるようです』 『怖いですね。次の話題は――』
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