ライブ

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ライブ

 どこが入り口か散々迷って見つけた、地下に繋がる階段を降りてたどり着いたライブハウス。  ズボンのポケットにスマホを突っ込んだだけの軽装には持て余す、ドリンクチケットと引き換えたペットボトルを片手に、一番後ろの壁に寄りかかった。  その時、真っ暗だったステージにカラフルな光が差し、これまで一番の光源だった非常灯がかすむ。  何も知らなければ怒号かと勘違いしそうな歓声が湧き上がり、ペンライトを振る観客たちの熱気が数段上がった。その勢いか、耳鳴りがする。  ――やめときゃよかった。  家から出るのもひと月ぶりな身体には、教室みたいな空間に人が詰まっている様子を見るだけで気分が滅入る。  頭痛が育つイヤな予感に、もしこのライブに救いがなければ、すぐ退場しようと決めた。  これが最大、と思った歓声がさらに大きくなり、ステージの両脇から五人の女の子たちが小走りで出て来た。彼女たちはあちこちに笑顔を向けたり、手を振って観客に応えながらそれぞれの位置に着く。望々は一番端だったが、偶然にも俺から一番見えやすい位置だった。  薄い緑のふわふわした衣装をまとって立つ場所からは、数十人の背中越しの距離がある。  数日前は手が触れるくらい近くかったのに。  軽快な音楽と共に踊り出し、望々たちは全員一緒に歌い出す。もちろん望々を目で追えば、自分が今とても輝いてると信じて疑わない、胸を張って光を浴びている姿が見えた。  まるで怖いものなしだった小さな頃から変わらないみたいに。
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