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再突撃
ライブ後にはチェキ会という、アイドルと観客が一緒に写真を撮るイベントがあったけど、不参加で帰った。
チェキ会の参加券は現金払いのみだったから、仕方なく……と、自分自身に言い訳をしながら。
単に胸のモヤモヤが晴れなかっただけだ。
電車に揺られながら、その正体は二つあるのに気がついた。
一つは、アイドルとして輝いている望々に対面する自信がなかった。
制服姿でもまぶしいかったのに、身も心もアイドル状態の望々を前にしたら、俺のちっぽけな自尊心は散り散りになってしまう。
こっちは幼馴染なだけの、ただの高校生。しかも不登校。
望々は顔面だけじゃなく、学業だって文武共に偏差値高めだ。本人は努力しているんだろうけど、それを隠すのも上手い。余計にこっちが惨めになる。
もう一つは、今まで知らない、望々のアイドル姿に歓声をあげる観客たちをこの目で見てしまったこと。
そいつらに望々が消費されている気がして、目を背けたかった。
参加券を買い順番を待たないと目の前に立つこともできない彼らと、俺は違うという見栄もあった。
――ただの幼馴染のくせに。
車窓から見える空はとっくに暗く、雲があついのか星はおろか月明かりすらいつもより遠く感じる。
光のないステージみたいだ。
地上を必死に照らしても、夜に沈んだ太陽は呼び戻せないし、空の機嫌で月だって見えなくなる。
望々がステージに上がったら、幼馴染なんて肩書はなにも通用しない。晴れの日を祈るみたいにファンサを待つしかない。
互いの距離を思い知らされた気がして、しんどい。
とりあえずライブには参加した。これで望々も満足しただろう。
明日からは、昨日までと同じ日々をくり返すだけだ。
望々の話みたいにちょっと脱線して、あんなにまぶしい存在になれない小心者の俺は、すごすごと元来た道へ戻るんだ。
――と、考えていた。
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