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「なんでチェキ会来なかったの。そこまでがライブって教えたよね? よって、キスはお預けです」
翌日、再びわが家のリビングに腰を落ちつけた望々は、カップアイスに舌鼓を打っていた。
しばらく会わないだろうとたかを括っていたのに、当然のように乗りこんできたのに混乱した。
今日は追い返そうしたけれど「アイスが溶ける!」と悲痛な声と表情がモニター越しに流れてきたため、やっぱりドアを開けてしまったのだ。
相変わらず顔面偏差値で物事を乗りきる女だ。
しかもアイスは一つだけだった。人の家に上がるなら、もう何個か買ってくるものじゃないのか。
自分ん家で食えと突っぱねる前に、靴をそろえて廊下を歩いていたから油断ならない。
「別にキスが目的じゃないし……普通に疲れたんだよ」
「ふうん。なら体力つけてリベンジしてよ」
「は? またライブに行けって?」
「来ないの? だって楽しそうに見てたじゃん」
嘘だ、と思った。そんなわけない。惨めさと焦燥感でモヤモヤに埋め尽くされそうだった。
「望々にはそう見えたかもしれないけど、違う。もう行かない」
「どうして?」
「場違い感ハンパないんだよな。サイリウム振ってあんな風に全身で応援するの、正直うわぁって思ったし。チェキ一枚のために並ぶ律儀さも俺は持てない。向いてないんだよ」
「そーかなぁー」
望々はアイスに集中していてこっちを見ない。ゆるくなったバニラが口の中に消えていく。
視界に唇が入るとどうしてもキスを連想してしまうから、目線を下げた。
「なあ、どうしてライブに来いなんて言ったんだ?」
母さんの差し金にしては、熱心すぎる気がした。
いくら幼馴染で家が近いからとはいえ、とっくに没交渉な俺へ何度も突撃する意味がわからない。
空になったカップの中で、スプーンをくるくる回しつつ、「そうだなー」と望々は天井をあおいだ。
「初心を取り戻すっていうか、違う視点が見たかったというか……最近さ、ツイッターとかインスタとか始めたの。中学生の間はダメってSNS系は全然やってなかったんだけど。でね、DMは受け取らない設定にしろって言われてたんだよ。だけどさあ、気になるじゃん? コメント残すタイプとは違う人が感想くれるかもしれないと思ったんだよね」
「解放してたのか」
嫌な予感しかしない。
「そ。まあ私がバカだったんだけどさ。なんかまあ……いろいろ届いたんだよ。下着売ってくださいとか」
「うわ」
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