第十一話

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「なんだじゃないですよ。心ここにあらずみたいな顔をして。最近、やっぱり変ですよ。奥さんが恋しい? でも、そろそろ僕たちもサランに戻れますよね?」 「サランに戻りたいのか? 彼女はどうするんだ?」  アーネストは、顎でカウンターのほうをしゃくった。先ほどの女性はそこで料理の準備をしている。 「彼女はそういうんじゃないですよ。こう、目の保養的な? 会えたらラッキーみたいな。そんな感じです。でも、サランに戻る話があるなら、戻る前に口説いてみたいですね」  ジョアンの言っていることが、アーネストにはさっぱりと理解ができない。 「お前の話は、さっぱりわからん」 「うわ。ひどい。最近の閣下、冷たい。昔はもっとこう、僕の話に付き合ってくれていたのに。年とって、怒りっぽくなったんじゃないですか? もしかして、あれ? 更年期っていうやつ?」 「お前なぁ……」  アーネストが「うるさい」「黙れ」としか言い返さないためか、近頃のジョアンは調子にのっている。 「昔の閣下でしたら、僕を黙らせる屁理屈の一つや二つ、言っていたのに。頭の回転も衰えているんですね」
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