第十三話

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 客と給仕、いつもはそれ以上の会話にはならない。しかし今は、こんな時間に食堂で働いている彼女が気になった。  夜は男性が多く働いているし、女性であってももっと年配者が多い。やはり、若い女性がこんな夜遅くに一人でというのは、いろいろと不安な点がある。  ガイロでは、まだこういった防犯の面に注力できていないのも理由の一つだ。やっとトラゴス国とスワン族のごたごたが片づいたところだから。  ほくほくと白い湯気が立ち上るスープを一口飲むと、身体がじんわりとあたたかくなる。身体だけではなく、心も満たされる。このスープはどこか懐かしい味がする。  いっとき、食事をするのも億劫になり、何を食べても味がせず、砂を噛んでいるような感じがしたときがあった。  だけど今は違う。たった一口のスープなのに、具材のうま味が溶け込んでいて、スープ全体の味がしっかりと伝わってくる。 (美味いな……)  今日のご飯は、やさしい味がする。  ゆっくりと食事を堪能してから、席を立つ。会計に向かうと、その先にはリリーがいた。 「まだいたのか?」
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