第十三話

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「しています」  ガイロの街では居住区が一区、二区、三区と区分けされており、区分けされた地区で納税額が異なる。三区は主に、既婚者、子どもがいる世帯が住んでいる地区であるため、アーネストも彼女が既婚者であると推測したのだ。 「ならば、このように遅くなるときには、配偶者に迎えに来てもらうようにしなさい」 「……せん」 「なんだ?」 「夫は、おりません」 「どういうことだ?」  アーネストは眉間に力を込めた。最近、こうやって顔に力をいれてしわを作ると、痕が残る。そうならないように心がけているつもりだが、彼女の今の話を聞いたら、無意識のうちにそうしていた。  結婚しているというのに夫はいないと言われても、意味がわからない。いや、もしかしたら夫に先立たれたのだろうか。となれば、税金の安い、一区に住むことだって可能だ。 「とりあえず、それは俺が持とう。三区だな?」  アーネストは彼女が手にしていたランタンを奪い取った。  広場から離れると、周囲はぐっと暗くなり、噴水の音も聞こえなくなる。カツカツと二人分の足音が周囲に響く。
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